ブラック・メタル/エクストリーム・メタルとノイズ・インダストリアルの親和性、 欧州でみられる共闘関係の背景や歴史について
先ずはこの作品からチェックして欲しい。
V.A. / Lords OF Chaos – The History Of Occult Music (Prophecy Productions) 2002
これは1998年米国作家マイケル・モイニハンがノルウェー作家ディードリック・ソーデリンドと共に1990年代初頭のノルウェー・ブラック・メタル・シーンについてレポートした”ロード・オブ・カオス-ブラック・メタルの血塗られた歴史”というドキュメント本のサウンドトラック作品だ(同名映画のサントラではないので注意)。
この作品ではメイヘム、ダーク・スローンなど様々なブラック・メタルを紹介しつつも、「音楽としての」ではなく「特殊な文化現象としての」ブラック・メタルを、アレイスタ・クロウリーやチャールズ・マンソン一派といった「オカルティズムやサイケデリックなどの非衛生的カウンター・カルチャー」を通して解読しようという試みがなされている。
制作は本の著者でもあるマイケル・モイニハン。ノイズ・インダストリアル・ファンの間ではブラッド・アクシスの活躍で知られる彼(余談だが1989年にモイニハンはノンことボイド・ライスとともに来日ライブもおこなっている)だが、前述の著作をはじめ多数の著作、翻訳者、ジャーナリスト、編集者などの顔をあわせ持つ人物だ。
なかでもモイニハンが2002年から不定期で発行する出版作品”Tyr : Myth-Culture-Tradition”はルネ・ゲノンやユリウス・エヴォラを彷彿とさせる過激な反近代主義、反資本主義を打ち出したジャーナル・シリーズ(現在Vol.5まで出版されている)であり、ここで彼は「キリスト教以前、近代以前の欧州の伝統的な神話、文化、社会制度を祝う」ことを宣言する。
この宣言によりモイニハンはインテレクチャルな反社会主義者のオピニオン・リーダー的存在としてその名を(良くも悪くも)世界にとどろかすこととなるのだが、それにしても彼のいう「キリスト教以前、近代以前の欧州の伝統的な神話、文化、社会制度を祝う」姿勢・・・・・このエクストリーム欧州伝統主義思想はモイニハンが宣言するはるか以前より、欧州ノイズ・インダストリアルからブラック・メタル、ダーク・アンビエントやペイガン・フォークに至るまでの地下水脈として剣呑な領域を形成し続けてきた歴史が存在することを忘れてはならないだろう。
さらに“ロード・オブ・カオス”でレポートされた90年代初頭のノルウェー・ブラック・メタル・シーンの背景に注目すれば、1989年ベルリンの壁崩壊、1992年ソ連解体、1993年EU発足などを体験するユーラシア激動の歴史が存在する。 EU発足以降は世界的にグローバリズムが加速し、それまでの欧州の境界線が開放された結果、西洋の中間層以下のレイヤーにいる人々の多くは資本流出と移民流入のダメージを直撃し、拡大する格差の下流へと流されていく。この時期より過激思想を求めたブラック・メタル・シーンから国家社会主義ブラックメタル(National Socialist Black Metal)運動が誕生したのも歴史的必然といえるだろう。
またこのようなブラック・メタルのロウな感覚、反社会性、反ポリコレといった抵抗主義はノイズ・インダストリアルにも大きな影響を及ぼすことともなる。 冒頭のモイニハンによるブラック・メタルのレポートや、フィンランドのグラントを筆頭としたハーシュ・ノイズやパワエレのアーティストがブラック・メタルを実際に演り出すといったケースも見られ、音楽ジャンルとしての境界線は曖昧になっていく一方、その思想は過激な方向に際立っていくのが特徴だ。
そしてコグニティヴ・コラップスである。”ロード・オブ・カオス”の中心バンド、メイヘムのボーカルであったマニアック、そしてラインクラフトの大久保正彦による編成という、まさにド直球でブラック・メタルとノイズ・インダストリアルの融合を具現化したユニットである。
不明瞭な電子ノイズがミニマルに渦を巻きながら、ムスリム的コラージュが散りばめられた彼らのカセット作品”Monotheistic Delusions”を聴く限りにおいて、その思想的意図は計り知れないが、同じムスリム・テーマとしてはムスリムガーゼというよりはNY在住のイラン人実験音楽ユニット、セイント・アブドラの生活感漂う政治性に近しいものを感じるのは気のせいだろうか。 疫病が蔓延し戦争が身近なものになった現在、もはやジャンル分けの意味はこと地下音楽世界では無意味なものと化してる。
必要なのは「どのようなジャンルの音楽をやるか(聴くか)」よりも「どのような抵抗運動の狼煙をあげるか」だろう。そしてあげた狼煙のかなたにコグニティヴ・コラップスという共闘を体験することこそが必要なのだ。
持田保
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